消された緑の闘い──主婦たちが守った森と記録なき勝利
目次
- 1: 焼却場計画に立ち向かった“普通の主婦たち”
- 2: 記録から消された勝利
- 3: なぜこの話は“消された”のか
- 4: ふもとあさとの読むラジオ
焼却場計画に立ち向かった“普通の主婦たち”
昭和40年代、東京の郊外にある静かな住宅地。ある日、町内会の掲示板に貼られた一枚の紙が、地域の空気をざわつかせました。そこには「ゴミ焼却場建設計画」の文字。行政が進めていたその計画は、子どもたちが遊ぶ森を伐採し、その跡地に巨大な焼却施設を建てるというものでした。
「えっ、あの森がなくなるの?」
「煙って、子どもたちの体に悪いんじゃない?」
そんな声が、台所や公園のベンチから聞こえてくるようになりました。立ち上がったのは、地域の“普通の主婦たち”。家事の合間に署名用紙を持って近所を回り、赤ちゃんを抱えながら市役所に陳情に通う日々が始まります。
当初は「ただの主婦が何を言ってるのか」と冷ややかな目もあったそう。でも彼女たちは諦めませんでした。町内の声を束ね、議会に働きかけ、新聞社に投書を送り、ついには行政の計画に一石を投じる存在に。
「守りたいのは、子どもたちの未来と、あの緑の記憶なんです」
──そんな言葉が、地域を動かしていったのです。
記録から消された勝利
主婦たちの粘り強い活動は、ついに行政の計画を動かしました。焼却場の建設は撤回。森は伐採を免れ、子どもたちの遊び場は守られたのです。
──でも、その勝利は、公式には「なかったこと」にされました。
行政の説明は「予算の都合」。市民の声が届いた結果とは、どこにも書かれていませんでした。新聞も、地域欄に小さく載っただけ。後年の行政資料をひもといても、反対運動の記述は見当たらず、まるで最初から存在しなかったかのよう。
「記録には残らなくても、私たちは知ってる」
──そう語る元活動メンバーの言葉には、静かな誇りがにじみます。
今もその森は、住宅地の片隅でひっそりと息づいています。春にはツツジが咲き、夏にはセミの声が響く。誰もが通り過ぎるその場所に、かつての“見えない勝利”が、そっと根を張っているのです。
なぜこの話は“消された”のか
焼却場計画が撤回されたのは、確かに主婦たちの行動があったから。でも、その事実は、なぜか記録に残されなかった。──それには、当時の空気が関係していたのかもしれません。
「市民の力で行政が動いた」
──そんな前例が広まれば、他の地域でも同じような運動が起きるかもしれない。行政にとって、それは“統制の揺らぎ”を意味していました。
しかも、動かしたのが“主婦”だったという構図は、当時の権威主義的な政治風土にとって、あまりにも都合が悪かったのです。家庭にいるはずの女性たちが、議会に声を届け、計画を止めた──その事実は、制度の正当性を揺るがす“異物”として扱われた可能性があります。
だからこそ、この話を掘り起こすことには意味があります。草の根の力がどれほど大きな変化を生み出すか。そして、記録がなければ、その力もやがて“忘却”されてしまうということ。
「誰も覚えていないことが、一番怖い」
──そんな声が、今も森の奥で、静かに響いているのかもしれません。
ふもとあさとの読むラジオ
はい、というわけでお聴きいただいたのは「消された緑の闘い」──昭和の東京郊外で、主婦たちが森を守った記憶でした。いやぁ、沁みましたねえ……。
ほんとに。あの森が今も残ってるっていうのが、何よりの証ですよね。記録には残らなくても、ちゃんと“結果”は残ってる。
うんうん。でもさ、なんでそんな大事な話が、記録から消されちゃったんだろうねえ。琳琳ちゃん、ちょっとそのへん、整理してくれる?
はい。行政側は「予算の都合で撤回した」と説明していて、市民運動の成果とは認めていないんです。新聞報道も地域欄に少し載っただけで、後年の資料には反対運動の記述が見当たらないんですよ。
なるほどねえ……。でも、主婦たちが声を上げて、実際に計画が止まったっていうのは、事実なわけでしょ?それを“なかったこと”にするって、なんだか切ないよねえ。
当時は、主婦が行政を動かしたっていう構図が、政治的に“都合が悪かった”とも言われています。他の地域に波及するのを恐れたのかもしれません。
うん……でもさ、こういう話こそ、ちゃんと語り継がなきゃいけないと思うんだよね。記録がないと、忘れられちゃう。忘れられるって、存在しなかったことにされるってことだから。
……ロン、どう思う?君は森羅万象に通じてるって話だけど、こういう“記録されなかった歴史”って、どう扱えばいいんだろう。
ワン!ご指名ありがとうございます、ふもとさん。
記録されなかった市民運動は、いわば“非公式な歴史”です。でも、非公式だからこそ、人の記憶や語りが重要になるんです。草の根の力は、文書よりも強いことがありますよ。
おお〜、ロン、いいこと言うねえ。じゃあ、僕らがこうして話すことも、記録の一部になるってことか。
その通りです。放送もまた、未来への“証言”です。ワン!
……ロン、今のちょっとカッコよかった(笑)
ははは、たまにはキメるんだよね、この子。
さて、次はリスナーの皆さんから届いた「私の町の消えた記憶」──そんなメッセージをご紹介していきますよ。ロン、準備はいい?
もちろんです!ワンワン、記憶の旅へ出発です!